リンダという女性がいます。
彼女は独身で、とても頭がよくはっきりとものを言う性格です。
大学では哲学を専攻していて、人種差別や民族差別などの社会問題に深くかかわっていました。
リンダの職業は次のどちらの可能性が高いでしょうか?
A)銀行員の窓口係
B)女性解放運動を行っている銀行の窓口係
この問題はBと答える人が多いようですが、よく考えてみるとおかしいことに気づくはずです。
BはAの部分集合なので、BがAより確率が高いことはあり得ません。
「20歳の大学生」よりも「大学生」の方が必ず多く、「女性解放家で銀行の窓口係」」よりも「銀行の窓口係」の方が必ず多いのです。
では、どうしてこんな単純な間違いをしてしまうのでしょうか?
それはリンダの説明文が、私たちが持つ女性解放家のイメージにぴったりと一致しているからです。
「学生のときに差別問題と深くかかわっていたのだから、女性解放運動を行っているに違いない」と、つい思い込んでしまうのです。
このように、ある特徴を過大評価してしまう思考の癖を、行動経済学で代表性ヒューリスティック(検索容易性)といいます。
検索容易性とは、物事を判断するときに検索しやすい出来事だけを自分の記憶から収集することです。
リンダ問題はカーネマン(ノーベル経済学賞)とトヴェルスキーによって考案されました。
私たち人間は確率を計算するのが苦手です。
ですから日常生活の出来事において確率を求めるときは、代表性ヒューリスティックのような便宜的手法を頼ってしまうのです。
さらにリンダ問題では、示された出来事が詳しければ詳しいほど誤答が多くなります。
例えば問題文でリンダに対する説明が、「リンダは女性です」という説明だけだった場合は、Bと答える人は少なくなるはずです。
代表性ヒューリスティックの他に、よく使われるものでは利用可能性ヒューリスティックがあります。
利用可能性ヒューリスティックとは、頭に思い浮かびやすく目立ちやすいものを選択するような方法のことです。
【問題】
次の英単語のうち多いのはどちらか?
A)7文字の単語で末尾がingで終わるもの
B)7文字の単語で6番目がnのもの
こちらも間違える人が多い問題です。
Aの条件を満たすものはBに含まれるのですから、必ずBの方が多い。
しかしingで終わる単語(playingやwalkingなど)の方が、頭に思い浮かびやすいのでAと答えてしまうのです。
A、Bを二つの事象とすると「AかつBが起きる確率」は、「Aが起きる確率」と「Bが起きる確率」のどちらよりも大きいことはあり得ません。
リンダ問題であげたように、「女性解放家で銀行の窓口係である確率」は、「女性解放家である確率」と「銀行の窓口係である確率」それぞれより高いことはあり得ないのです。
このようなバイアスを連言錯誤と呼び、確率に関するバイアスの中では最も多く起こるといわれています。
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