図は有名なミュラー.リヤーの錯視です。
ほとんどの方が一度は目にしたことがあり、直線が同じ長さであることを知っています。
目の錯覚だとわかっているにもかかわらず、直線の長さが違うように見えてしまうのはなぜでしょう?
ミュラー.リヤーのような錯視を「サイズの錯視」といいます。
目の錯覚が起こる原因は、錯視のタイプによってそれぞれ違いますが、ほとんどの錯視は原因がはっきりとわかっていません。
しいて言えば「脳が騙されている状態」といえるでしょう。
このように私たちの脳はいとも簡単に騙されてしまうのです。
しかも何度も同じように。
行動経済学でいうバイアス(偏り)とは、先入観や偏見、心の傾向のことをいいます。
バイアスは間違った思い込みによって、人々に非合理的な行動をとらせるのです。
さらに、一度バイアスにかかってしまうとそれを取り除くのは難しく、何度も同じようなことを繰り返してしまうという性質を持っています。
目の錯覚だとわかっているのに、何度見ても騙されてしまう錯視と似ていますね。
たとえばスポーツ観戦をしているときや、買い物をしているときなど。
このように何気ない日常生活のなかでも、私たちは様々なバイアスの影響を受けています。
心理的バイアスが働くと、私たちの判断や行動は合理的なものではなく、非合理的なものとなります。
「今さらあとに引けるか!」
などといって、ギャンブルでずるずると賭け続けてしまうのも、サンクコスト(埋没費用)といわれる心理的バイアスの一つ。
今までにつぎ込んだ費用を過大視して、もう戻ってくる見込みのないコストにいつまでも捉われてしまうのです。
スウェーデンの自動車ドライバーにアンケート調査を行ったところ、「自分は平均よりも運転が上手い」と思っている人が90%を占めました。
実際に平均よりの運転が上手い人は50%なので、40%の人は自信過剰による勘違いといえます。
このように私たちは根拠のないものに信念を抱いたり、予想を信じたりする傾向があります。
また、私たちは意思決定を行う際にヒューリスティックという簡便法を用います。
ヒューリスティックは心理学用語で、人が複雑な問題を解決するときに経験則などに基づいて、手っ取り早く問題を解こうとすることです。
ヒューリスティックは判断までの時間は早いですが、認知バイアスを含んでいることが多く、ときに誤った答えを出してしまうこともあります。
自信過剰やヒューリスティックを総称して「認識の錯覚」といいます。
繰り返しになりますが、冒頭であげた錯視が目の錯覚だとわかっていてもそう見えてしまうように、認識の錯覚からもそう簡単に逃れることはできません。
ですから私たちが思っているよりもずっと、経験則や直感というものはあてにならないのです。
私たちは経済学が主張するように、いつでも合理的な判断ができるわけではありません。
生身の人間は勘定ではなく感情で動くのです。
タバコが健康に悪いと知っているのに、どうしてタバコを吸い続けるのか?
摂取カロリーより消費カロリーの方が大きければ痩せられると知っているのに、どうしてダイエットに苦労するのか?
行動経済学は従来の経済学とは違って、生身の人間が実際にどのように考え行動するのかという一連のプロセスを、心理や感情的な面に即して分析する学問です。
広告